【イベントレポート】光と空気を閉じ込めてー石川真悠と語る「交差点」
Report
2024.12.03
2024年11月9日(土)、VALLOON STUDIO SHIBUYAにて、石川真悠さんの個展「かつて海だったここは、」の会期中に併せて、トークイベント「交差点」が開催されました。
※「交差点」とは…
人はそれぞれに自分の考えや価値観を持って生きています。VALLOON STUDIOはそんな人々が交わる場を作りたいと考えています。「交差点」はアーティストに限らず、人が何を感じ、何を考え、何を作っていくのか、世代や立場を超えてクリエイティビティが有機的に交わっていく機会として、アーティストを交えた定期的な交流イベントです。どんな肩書きを持つ人も、同じ日常を生き、同じ道の延長線上に立っています。何を見て、感じたことをどう表現するのか、そこにあらわれる個性が行き交い、出会い、対話が生まれる場所を作ります。
今回の「交差点」は、アーティストの石川真悠さんと参加者が直接対話し、創作への想いや制作の背景について深く知ることができる貴重な機会となりました。
個展「かつて海だったここは、」のテーマと背景
石川真悠さんは、山をテーマにフィルムカメラを用いた写真作品を制作するアーティストです。「かつて海だったここは、」では、日本列島の山々がかつて海の底であったという地質的な背景をもとに、山と海の繋がりを探る作品が展示されています。
このテーマに取り組むきっかけとなったのは、南アルプスでの撮影体験でした。険しい山を登りながら、「この山々がかつて海の底だった」という話を聞いた瞬間、山と海という対局的な存在が結びついた衝撃を受けたそうです。その後3年間にわたり、山を撮影し、その歴史が残る岩や地形の魅力を作品として表現し、今回の展示に繋がっています。
山を撮り続ける理由
石川さんが写真を始めたのは、学生時代に山岳部で登山を始めたことがきっかけでした。「山頂の景色を持ち帰りたい」という思いからカメラを手にしたそうです。しかし、登山は決して楽なものではありません。重装備や悪天候、命の危険といった困難が伴う中、フィルムカメラでの撮影には多くの手間がかかります。それでも、「山に登り続けてしまう」と語る石川さん。その理由は、達成感や自然との一体感、そして作品を通じて人々に山や自然への興味を持ってもらう喜びにありました。
フィルム写真へのこだわり
石川さんはフィルムカメラを選ぶ理由について、「撮影時の光や空気感を物理的に閉じ込められるから」と語ります。特にフィルム特有の柔らかな粒子感は、「山の空気」を表現するのに最適であり、山の豊かな空気感を伝えてくれるそうです。また、暗室での手焼き作業では、色調や露出を一枚ずつ調整しながら仕上げていくため、まるで絵を描くような感覚があるとのこと。石川さん自身、東京藝術大学で美術を学んだ経験があるため、アナログな作業に特別な親和性を感じているそうです。「手間をかけた分だけ作品への愛着が深まる」という彼女の言葉は、フィルム写真への思いを象徴しています。
参加者との対話を通じて
今回の「交差点」では、石川さんと参加者が直接対話を交わし、登山や日常生活での自然の関わりについてさまざまな意見が飛び交いました。
1.なぜ山に登るのか?
登山経験者の中からは、「山頂で地球そのものを感じる瞬間」や「自然との一体感」といった山登りの魅力が語られました。山頂でのお酒や静かな時間、鳥の声を楽しむ、雄大な景色への感動、さらには、「ただ歩くという行為を続けるだけで頂上に着く」というシンプルな達成感など、個々の楽しみ方が印象的でした。
2.日常の中で自然と関わる瞬間
登山経験のない参加者からも、日常で自然を感じる瞬間についてさまざまな意見が出ました。海辺で波の音を聞いたり、朝日を浴びて目覚める瞬間といった身近な体験や、家族と過ごすキャンプや雲海を眺める時間など、自然との触れ合いの仕方は多岐にわたります。特に、「波音や沢のせせらぎに山と海の共通点を見出した」という声は、石川さんの展示テーマにも繋がる興味深い視点でした。
最後に…
石川さんは、作品に対して「綺麗すぎる写真をあえて選ばない」というポリシーを持っているそうです。山岳写真にありがちな象徴的な構図を避け、山の空気感やその場の情景をリアルに伝えることを大切にしています。また、美しい景色は写真を通してではなく、実際に見に行ってほしいという思いも語られていました。
「誰もが美しいと感じる写真だけでなく、些細な瞬間を切り取った作品も混ぜることで、作品に物語を持たせたい。」という考えが、新鮮で面白いと感じました。
石川真悠さんの「かつて海だったここは、」は、山と海、そして自然の繋がりを再発見する展示となりました。トークイベント「交差点」を通じて、作品の背景やフィルム写真の魅力に触れるとともに、自然の壮大さや創作へのこだわりを感じることができました。
VALLOON STUDIO SHIBUYAは、今後も世代や立場を超えたクリエイティブな交流の場として、「交差点」を続けていきます。
まだ足を運んだことのない方も、ぜひ次回の「交差点」で、新たな視点や対話の楽しさを体験してみてください。